<後編>ウィズコロナ時代の医療経営、10の視点―上尾中央医科グループ(AMG)の現状と取り組み―

アイキャッチ画像

ウィズコロナの時代を乗り切っていくために病院経営はどうあるべきか、施策は何か―?上尾中央総合病院をはじめ、多くの医療機関・施設を運営する上尾中央医科グループ(AMG)では、解決を現場の医師や医療者個人に委ねるのではなく、病院組織として取り組みをおこなっています。後編では、取り組みの10の視点のうち、残りの6つについてお話を聞きました。
(2020年9月取材)

一般社団法人上尾中央医科グループ協議会 
総局長 久保田 巧
上尾中央総合病院を中心に、152の医療機関・施設・学校・事業所等を運営する上尾中央医科グループ(AMG)本部である上尾中央医科グループ協議会を統括。

(5)オンライン化、ICT・RPA活用などのIT化

オンライン診療は新型コロナ禍によって急速に表面化するようになりました。現在は、医療業界のオンライン診療件数統計の多くが、電話によるものだと思います。そして、このオンライン診療の病院としての案内のほとんどがプル型(自発式)であるということです。薬のみの診察(指導料がない患者)は、オンライン診療に移行しても、点数としては、200床以上は同点数、200床未満の病院では外来管理加算の点数が減少するのみで、ほぼ変化がありません。もともと薬のみの患者日当点は200点未満ですので、外来日当点の平均が1,000点以上の中で、薬のみの患者にも医師が同じように労力をかけ、外来ブースやその他の人的資源を利用して診察をすることは、効率化だけの視点からすれば検討の余地があると考えます。

この200点未満患者をどうマネジメントするかは病院経営としてもとても重要だと考えています。日当点200点未満という指標を利用し、病院として開業医へ逆紹介するという選択肢も重要です。自院に200点未満の患者が構成比としてどれだけあるか、これは、月3万件ほどの外来ビックデータでも、エクセルのピポットテーブルなどで簡単に診療科別、医師別に分析することができます。特に医師別に見るととても面白い傾向が見られます。

オンライン診療は、考え方や業務フローにより、効率性に幅が出ます。
患者には事前に予約してもらい、例えば、事務へのタスクシフトの代名詞といわれる医師事務作業補助者を活用し、診察時間前までにあらかじめ指示をもらいます。代行入力を行っている病院であれば、同時にDo処方などの入力を行っておきます。電話も全て手配し、医師へは患者ごとにPHSなどの受話器をリレー方式で渡します。当日のオンライン診療で特段患者に変化が見られなければ、そのまま、Do処方の承認をして、短時間で終了させることができます。医師の診療タスクのうち、診察中にやらなくても良いタスクとそれにかかるタイムをシフトすると考えることで、診察中の時間効率などの回転率はさらにアップします。そのようなことから考えると、むしろ、オンライン診療は、プル型からプッシュ型に変化させることが、患者サービスと経営の効率化の両面の視点で、とても大切であると考えています。

病院におけるICT化では特に、オンライン診療が注目されていますが、それと同時に院内のICT・RPA化が重要です。一つ例を挙げると、当グループの新卒試験には、適性検査(処理能力・性格検査)が必須となっています。コロナ禍において、オンライン面接を導入しましたが、適性試験はアナログの筆記試験であったため、そこが課題でした。そもそも適性試験をやめることも選択肢としてはありましたが、採用判断のひとつとして重要視していることもあり、オンライン適性検査を開発するに至りました。昨年より本部所属のSEの大幅増員の方針を立てましたので、今期は、このSEチームのインハウス開発に拍車がかかりました。開発はOSS (Open Source Software)を主にしていますので、かなり早く開発できます。1次オンライン面接と同時に自宅でオンライン適性試験を受けてもらう流れとして、開発と同時に今年度の新卒採用に活用しました。この導入は採用までの時間短縮と同時に、採点の手間の削減やカテゴリ別の点数比較や平均値の把握などが即座に可能になり採用の事務作業もかなり削減できました。上尾中央総合病院の看護師の新卒採用にも活用し、例年通りの約100人の採用も早期に実現できることとなりました。これを応用して、ストレスチェックのスマホWEB版も開発し、全職員に実施しています。

その他、特にRPAの視点で、今は私の肝いりで、事務職のアナログな育成体系のデジタル化とリマインド機能を併せ持つツールも開発中です。その他、現在20ほど開発プロジェクトが進んでいます。当グループでは、インハウス開発をしていますが、世の中には活用できる既製品もたくさんあります。業務効率化の視点で、タスクシフトをICTへ委ねることで自動化させることは、医療界でも確実に急速に進むでしょう。そしてそれは、大きな価値を創造し、同時に意思決定のスピードや精度も向上させることが出来ます。

(6)オーバートリアージをいかに防ぐか

各学会から、不要不急患者の検査や手術などの延期推奨の発信があり、医療業界はかなり戸惑ったことと思います。突然の通達で、診療科・医師単位の判断で拡大解釈をしてそれぞれが実行し、それがオーバートリアージになり、診療を縮小してしまう事例も多く発生したと聞いています。当グループのコロナ禍においてのガバナンス体制の強化として、医師単位や診療科単位で検討した新型コロナの対応方針は、病院としての組織決定することを推奨したことと、また、本社病院である上尾中央総合病院の診療部幹部で検討したそれぞれの診療方針を各病院に発信し、ヘルプデスク機能としての情報元になったことも、経営の傷口を小さくした要因であったと考えます。

(7)医師のインフォームドコンセント

新型コロナ禍でも治療すべき患者が、必要な治療を継続するために、医師には患者の理解が得られるまで何度も治療継続の必要性を説明していただきたいと思っています。コロナの状況を踏まえて、治療の継続と投薬をやめてしまうことのリスクをしっかり説明することで、受診控え、治療の遅れのための急性憎悪などを減少させることが、結果的に外来減少抑制にもつながります。やはり病院からの包括的説明よりも、主治医からの説明の効果は絶大です。

さらに言えば、患者に通院によるコロナ感染リスクの心配が強いようなら、医師からすみやかに他職種へバトンタッチでき、オンライン診療などに変更する手続きを、出来るだけ医師のタスクを代行して、柔軟かつスムーズに行える体制があることも重要です。

(8)急性期病院はより治療度を高める

当グループのある病院では、外来数は▲10%であるが、収入は▲5%ほどの減少のように、患者数減に比べて収入減幅が小さい傾向が、急性期度の高い病院の傾向としてありました。これは、入院日当点の低い患者が減少し、治療度の高い患者の構成比が高くなっていることも考えられます。治療度の低い患者の割合の多い病院は、今後はますます厳しくなっていくでしょうから、当グループとしても、該当する病院や病床は、将来構想として、病床編成を見据える必要性があると考えています。それも、コロナ禍でその見直し時期が早まっていると感じます。特に200床以上の病院では、逆紹介として開業医等へ紹介していく役目がありますし、それによって治療度の高い患者様を受け入れられる体制をつくる必要があります。

これもオンライン診療で述べたように、医師のタスクをどうマネジメントするかで効率性が変わります。例えば、日当点200点未満の患者は、逆紹介が可能という仮設のもと、対象となる患者を医事課がデータ抽出します。そのリストを事前に、主治医に逆紹介が可能かをチェックしてもらう。医師事務作業補助者は紹介状を代行作成するなどし、外来受診時に全ての準備が完了していることで、医師の負荷を軽減しながら、逆紹介を推奨し、経営効率を上げていくことができます。

(9)病床機能の見直し、さらなる在宅の強化

今後、感染症対策・体制は強化され、感染症特別病院・病床やICUなどの高度急性期機能と一般の急性期機能やケアミックスとの差が拡大していくと思われます。
そのような中で、ケアミックスの地域密着型の病院については、在院日数や重症度の維持が日々難しい状況であれば、7:1にこだわるのではなく10:1へシフトし、一部の人員を今後ますますニーズが高まる在宅事業へシフトさせることも大切な視点です。必要人数からの差引きでは10:1の方が利益は若干多いこともあります。新規入院患者の減少から、単なる在院日数を延長する手段は制度的に難しくなっています。特に中規模の病院では、このコロナ禍において、一般病床を回復期リハ、地域包括ケア病床や病棟、に転換して、ある程度の期間の自院内に入院患者を安定確保するといった取り組みも行われています。

一方、回復期リハビリ専門病院などは、コロナ禍においても比較的安定稼働を維持していた状況から、紹介元の病院の急性期入院患者の減少やそのような病床の一部の機能変更に伴い、紹介患者の減少で、9月後半くらいから稼働に影響が出ている病院が多くなってきている傾向も見受けられます。

このようにコロナ禍において、地域患者のルートマップが急速に変化していることもあり、時代の流れに合わせて地域ニーズを適切に把握し、今後、生き残っていくための柔軟な病床機能の見直しを検討していく病院はさらに増えていくでしょう。

(10)職員最優先の組織へ

職員は財産。いかに安心して、気持ちよく働いてもらえるか、モチベーションを高くもってもらうことができるかは、永遠の課題です。今回、この視点で、早期に当グループで実行したものがあります。その一つとして、4月初旬にコロナ陽性者、疑い者用の新型コロナ特別休暇制度(陽性者は14日間、疑い者は4日間)を有給以外に設定しました。また、小学校休業等対応助成金も制度決定と同時に導入しました。小学校休業の助成金の活用は制度上、企業の方針に委ねられていますが、この早期導入も職員視点が目的で、コロナ禍で不安な職員に生活を守る意味でも、少しでも安心感をもってもらうためです。そして、この資源を生きた投資にするために、理事長と私の連名で、職員に対して、この制度の目的を含めたメッセージを配信しました。

対策本部のメーリングリストには、各病院や施設からのコロナ陽性者の発生状況が随時発信される仕組みとし、都度、本部からの各病院への支援要請などが必要かどうかなどプッシュ型で問い合わせる仕組みとしました。まさしく手を差しのべる本部体制だと思っています。さらに、対策本部からは、『AMG医療の質向上委員会』という横断的な質向上の組織があり、その感染部会長の医師(上尾中央総合病院所属)を現場へ派遣し、濃厚接触者の自宅待機の範囲やその後の感染拡大に防止対策の対応などのアドバイスを、組織として機能させました。病院にはICTなどがいますが、その判断の客観的評価も大切でした。特に老健は、対応に慣れていないこともあり、かなりのオーバートリアージになる傾向でしたので、専門メンバーのリスクチェックなども行ったことがよかったと思います。このように本部のガバナンスを効かせたことで、現場のオーバートリアージを最小限にすることと、同時に職員の不安を軽減することが、適切な受け入れになる大切なマネジメントだと思っています。

このようなコロナ対策チームの派遣は各県単位でも行っているので、積極的に活用されると良いと思います。また今後、感染防止対策加算(1)の病院は(2)の病院の支援は当然ですが、地域の基幹病院は、その基準を問わず、日本医療機能評価機構の1.2.3「地域に向けて医療に関する教育・啓発活動を行っている」の中項目に「地域の医療関連施設等に向けた専門的な医療知識や技術等に関する研修会や支援の実施」が定義されているように、病院にとどまらず、特に地域の介護関連施設、事業所に対して、新型コロナに対応できる感染防止対策や疑い症例が発生したときのヘルプデスクを含めたアドバイスなど、入所者受け入れなどを適切にできるように幅広く支援してあげることが、地域に対する感染防止対策と同時に経営支援にもなると考えています。

課題をミクロに分析し、病院全体として取り組んでいく

少し落ち着きだした新型コロナウィルスですが、これから冬を迎えて再燃傾向も見られます。ワクチンなどが普及しても特に外来患者については、数年はコロナ前の患者数水準まで戻りそうにないと感じています。

感染対策意識が高まり、高齢者のその他の感染症そのものが減っていますし、いまだに小児科、皮膚科などの外来患者数も低迷しています。もともと過剰だった診療がコロナでふるいにかけられた面もあります。このような環境下で、病院は本来の役目である、より治療依存度の高い患者を多く確保しなければならなくなるのと同時に、今後、本格的な病院の再編、そして、選ばれる時代へ急速に向かっています。それでも、それぞれの病院が、時代にあった地域での役割を認識し、質の高い医療を提供する姿勢が大前提ということは変わらないでしょう。

前編でも述べましたが、地域性や病院の形態によって病院のマネジメントは異なります。また、経営改善に対して、大きな特効薬があるわけでもありません。それぞれの要因をしっかり細部まで分析して、ステークホルダーに対して粒度の高いものにし、意思決定をしやすくすることが、特に事務側には求められます。そしてPDCAを回すうえでは、途中経過をモニタリングし、丁寧に取り組むことも大切だと思っています。こうした課題解決のガバナンスによる、継続的に課題解決サイクルを回すあらゆる活動が、アフターコロナの時代に対応できる組織をつくると考えています。